カナダでの生活

カナダの歯科保険ってどんな仕組み?会社からの「ベネフィット」

カナダで働いていると、会社から「給料のほかにもうれしいサポート=ベネフィット」がもらえることがあります。その中でも、特に人気があるのが歯医者に通う際に使える「歯科保険(Dental Insurance)」です。カナダでは歯科の費用が高額になることも多いため、こうした保険の有無は、実際の生活にも大きく影響します。

この記事では、どんな治療がカバーされるのか、いつから使えるのか、どんな保険会社が多いのかなどについて、実際の体験を交えながらわかりやすく解説していきます!

よく使われる保険会社(カナダオンタリオ州)

カナダで多くの企業が契約している、代表的な保険会社は以下の通りです。

  1. Sun Life(サンライフ)
  2. Manulife(マニュライフ)
  3. Canada Life(カナダライフ)
  4. Desjardins(デジャーダン)

これらの会社と雇用先が契約していることで、社員や家族が医療・歯科保険を使えるようになります。

会社のベネフィットとしての歯科保険

今回お話しする歯科保険は、勤務先を通じて提供されている「Employee Benefits(従業員福利厚生)」の一部です。

このような歯科保険は、雇用主が提供する「団体保険(Group Insurance)」の一環であり、保険料の一部または全額を会社が負担しているケースが多く、会社にとっても従業員にとってもメリットがあります。また、この保険には被保険者本人だけでなく、配偶者や子どもなど「扶養家族(Dependent)」も加入できる場合が多く、家族全体で活用することもできます。

ベネフィットを提供していない会社もあるため、面接・入社の際に確認してください。

加入タイミングと待機期間(Waiting Period)

カナダの企業では、入社してすぐに保険が使えるわけではありません。多くの場合「待機期間(Waiting Period)」が設けられており、通常は入社から90日(Probationary Period使用期間が終わって)の場合が多いようです。

例:4月1日に入社した場合 → 保険の開始日は7月1日からとなるケースが多いです。

保険がいつから使えるのかを正確に知るには、オファーレター、雇用契約書やHRに直接確認しましょう。「Benefits will commence after 3 months of continuous employment.」といった表記があると思います。

わさび

この「待機期間」は、実は交渉によって短縮できることもあります。私自身の経験では、面接時の給与交渉と同じタイミングで「保険も入社日から適用してほしい」と申し出たことがあります。必ずしも受け入れてもらえるとは限りませんが、伝えてみると案外すんなり「OK」が出ることもあるので、交渉してみる価値は十分にあります

歯科治療:BasicとMajorの違い

歯科保険では、一般的にBasic Services(基本治療)Major Services(大掛かりな治療) という2つのカテゴリーがあります。

ポイントBasicMajor
処置の目的予防・軽度の修復高度な構造修復
費用比較的安い高額になりやすい
補償率高い(80~100%)低め(50~80%)
補償条件比較的ゆるい事前承認が必要なことが多い

Basic Services(基本治療)

日常的に必要な治療を指し、保険の補償が最も高いカテゴリです。例えば:

  • 定期検診(Recall exam)
  • 歯石除去(スケーリング)
  • 詰め物(Composite restoration)=虫歯治療
  • レントゲン撮影(X-rays)
  • Polishing(ポリッシング)
  • フッ素塗布

これらの処置は、保険プランによって80〜100%の補償がされることが多く、自己負担が少ないのが特徴です。

歯科保険では、定期検診(recall exam)などの予防的な治療には、回数の上限が設けられていることが一般的です。たとえば、「6か月に1回まで」や「1年に2回まで」といった制限が保険プランに明記されていることがあります。

Major Services(大掛かりな治療)

こちらは、歯の機能回復や構造補修を目的とした高度な治療です。例えば:

  • クラウン(被せ物)
  • ブリッジ(橋義歯)
  • 義歯(デンチャー)
  • 外科的な抜歯
  • 歯肉移植

治療費が高額になりやすいため、保険カバー率は50〜80%程度であり、自己負担が増えることが多いです。

Pre-determination(プレ・ディターミネーション)

これは、将来受ける予定の歯科治療に対して、保険会社が「どれだけ補償するか」を事前に知らせてくれる見積書です。
治療費が高額になる場合は、保険のカバー対象かどうかを前もって確認することが大切です。これを Pre-determination(プレ・ディターミネーション) といいます。

わさび

大きな治療を予定している場合は、クリニックが保険会社にPre-determination(事前承認)を出してくれるかどうかも確認しましょう。この手続きを行うことで、治療前に「保険がいくらまで補償してくれるのか」「自分がいくら支払う必要があるのか」を正確に把握することができます。

手出し無し!Direct Billingの仕組み

Direct Billing(ダイレクトビリング)とは、歯科クリニックが直接保険会社に請求し、患者が支払う金額を最小限に抑える仕組みです。

通常、歯科治療を受けた後、患者が一旦全額支払い、後から保険会社に請求をする必要があります。しかし、Direct Billing対応のクリニックでは、保険会社が直接支払うため、患者はその場で自己負担分のみを支払うことになります。

メリット
  • 立て替えが不要(お金を払わずにすむか、一部だけ払う)
  • 自分で保険請求書を書く手間が省ける
  • 保険が何%使えるかその場で確認できる

ただし、すべてのクリニックがこのサービスに対応しているわけではないため、事前に確認が必要です。

わさび

初めて歯科受診を予約する際には、歯科クリニックに「Direct Billing(保険会社への直接請求)に対応していますか?」と聞いてみましょう。これに対応している場合、治療費のうち保険でカバーされる金額は、あなたが立て替えることなく、保険会社が直接クリニックに支払ってくれます。その場で支払うのは自己負担分だけです。

体験談:プラン2社比較と実際の費用

保険会社2社の比較

会社が提供する歯科保険プランは、加入する保険会社や契約内容によって補償の範囲やカバー率、使える金額の上限が異なります。私自身、これまで2つの会社で歯科保険に加入した経験があり、それぞれ以下のような違いがありました。

  1. 現在働いている会社が加入するグループベネフィット 
  2. 以前働いていた会社が加入するグループベネフィット
比較項目現在加入しているプラン昔勤めていた会社のプラン
Basic Services(基本治療)80% カバー90% カバー
Major Services(主要治療)80% カバー 50% カバー
年間上限(Basic + Major)$1,500(Basic)
$2,000(Major)
$1,500(Basic + Major 合算)
Recall Exam(定期検診)6ヶ月ごとに受診可能6ヶ月ごとに受診可能
スケーリング年間12ユニットまで年間12ユニットまで
フッ素塗布・口腔衛生指導含まれる(詳細明記なし)含まれる(明記あり)
根管治療(Root Canal)おそらくBasic扱い(記載なし)Basic扱いと明記
事前承認(Pre-determination)$300以上で推奨$500以上で必須
矯正治療(Orthodontics)60%(Lifetime Max $2,000)50%(Lifetime Max $3,000)

治療費が高額になる場合、保険会社への事前承認(Pre-determination)が必要です。現在のプランでは、$300以上の治療で推奨とされており、義務ではありません。一方、以前のプランでは$500以上の治療で必須と明記されており、厳格な管理がなされていました。

上の表からわかるように、カバー率が高く自己負担が少ないプランもあれば、大掛かりな治療に強いプランもあるという特徴があります。自分の治療ニーズや利用頻度に応じて、プランの特徴を理解し、賢く活用することが大切です。

検査や歯石除去の費用

カナダで歯科治療を受ける場合、治療内容によって費用が異なりますが、多くの保険プランでは定期検診(Recall Exam)やX線検査、スケーリング(歯石除去)などの基本的な処置はカバーされていることが多いです。今回は実際に受けた治療を例に、費用の内訳とその意味を紹介します。

治療内容金額(CAD)
口腔検査(Complete Oral Exam)$182.00
歯科用X線:PA(4枚)$63.00
歯科用X線:バイトウィング(4枚)$61.00
パノラマX線(Panoramic)$84.00
歯石除去: スケーリング(3ユニット)$200.00
Polishing(ポリッシング)1/2 表面を滑らかに磨き上げる処置$29
フッ素塗布$38

上記は保険適用前の金額です。全て「Basic Services(基本治療)」保険対象でした。

スケーリング(歯石除去)ユニットとは?

「Scaling 3U」という表記は、スケーリング(歯石除去)を3ユニット分行ったことを意味します。カナダでは、スケーリングなどの処置に対して「ユニット(unit)」という単位が使われています。一般的に、

  • 1ユニット = 15分

とされており、3ユニットの場合は約45分間のスケーリング処置を受けたということになります。

また、多くの保険プランでは年間12ユニットまでが補償対象とされており、それを超えると自己負担になる点に注意が必要です。

虫歯の治療費

カナダで言う、Composite Restoration は、「虫歯を削って、レジンなどで詰めて歯の形を戻す処置」で、日本では「詰め物」や「虫歯治療」と呼ばれると思います。

この治療は、基本的には Basic Services に分類されます。保険対象の場合が多く、非常に一般的な処置です。

費用差の理由

詰め物(Composite Restoration)の費用が異なる理由として、治療する部位(前歯 vs 奥歯)、修復する面(1面 vs 2~3面)、使用する材料などが挙げられます。奥歯や複数面を修復する場合、費用が高くなる傾向にあります。

要因内容
歯の場所前歯よりも奥歯のほうが高額になりやすい
修復範囲小さな虫歯と大きな虫歯では必要な材料と時間が異なる
面の数1面 vs 2〜3面など、治療範囲が広がると金額も上がる
クリニックの料金方針歯科医院によって微妙な違いがある
材料の種類保険適用でも、材料の種類や難易度により差が出る

多くのクリニックは「オンタリオ歯科医師会(ODA)」の料金表を基準にしていますが、わずかながら医院ごとに料金設定が異なることもあります。

わさび

今回の見積もりにおいても、金額が小さいものはおそらく小さな虫歯金額が大きいものは奥歯や中程度の虫歯であったと推測されます。このように、同じ「虫歯の治療」であっても、歯の位置・虫歯の大きさ・修復の難しさによって費用が大きく異なります。そのため、事前承認(Pre-determination)を通じて、保険がいくら補償してくれるか、事前に確認しておくことがとても大切です。

年間上限を超えた場合、翌年に繰り越す

歯科保険における事前承認(Pre-determination)には、有効期限が設けられているのが一般的です。たとえば、「発行日から1年間有効」といった形で書かれており、その期間内であれば見積もり通りの金額で治療を行うことが可能です。

一方で、年間限度額(Annual Maximum)は通常1月1日にリセットされます。つまり、1年間で保険会社が支払ってくれる合計金額に上限があり、それを超えてしまうと、超えた分は自己負担となってしまいます。

たとえば、2025年にすでに上限(例:$1,500)を使い切っている場合、保険の適用を受けずに追加の治療を行うと、全額自己負担になります。

しかし、現在持っている事前承認の見積もりが「2026年6月まで有効」である場合、2026年1月以降に治療を行えば、新しい保険年度の限度額を使って補償を受けることが可能です。これにより、自己負担を回避することができるのです。

緊急性が高くない場合には、クリニックと相談のうえで治療スケジュールを調整することで、保険の範囲内で費用を抑えることができます。治療を先延ばしにする際は、歯の健康リスクとバランスを取りながら、慎重に判断するようにしましょう。

まとめ

自分の治療計画に合わせて、最適な保険プランを選び、保険の補償範囲や年間限度額を理解して賢く使うことがとても重要です。

特に、同じ「虫歯治療」でも、場所や範囲によって費用が大きく異なるため、事前承認(Pre-determination)を活用して自己負担を減らす工夫が有効です。

年間の補償上限を超えそうな場合は、翌年に治療を回す計画的な調整も視野に入れ、無理なく、かつお得に治療を進めていきましょう。